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【前の話】第四話 [sitecard subtitle=関連記事 url=https://koji-ogawa.com/toushisagi-04=] あなたには 「やり直したい」[…]
「寒い…」
北海道の1月20日。
夜中の2時。
一刻も早くKの家に着くために
人通りのない道を駆け足で向かった。
Kのマンションに着いたとしても、
Kがインターホンのオートロックを
開けるとは限らない。
もしかしたら、
家から逃げ出しているかもしれない。
そうなればお手上げだ。
今は祈ることしかできない。
Kがマンションにいることを。
そして、最悪の事態が
起きていないことを。
私はただ祈ることしかできなかった。
お金に目がくらんで見えなかったKの本性
ピンポーン
息も整わないままKの住んでいる
マンションのインターホンを鳴らした。
K : …はい。
Kがインターホンに出た。
家にいる。確かにKは家にいる。
小川 : 開けて。
私はたった一言そう言った。
そして、Kのマンションの
オートロックが解除された。
ようやくKと直接会うことができる。
この状況で、Kは最初に
どのような言葉を発するのだろうか。
Kの部屋のドアの前に着くと、
中から鍵が開けられる音がした。
そのまま部屋のドアを開けると、
玄関にKが立っていた。
ドクンッ
鼓動が高鳴る。
Kの表情はどこか虚ろで、
放心状態のように見えた。
言いたいことは腐るほどあるのに、
うまく言葉が出てこない。
私が口を開こうとした直後、
なんとKはそのまま何も言わずに
部屋の奥へと入っていった。
あり得ない…
その行動に怒りが湧いてきた。
私は急いでKの後を追い、
部屋の中に入った。
Kは私の存在を無視するかのように
何も言わずに部屋に入って、
イスに座りはじめた。
そのKの態度を見て
私は怒りを抑えることができなかった。
小川 : まずはじめに言うことがあるだろうが!!
私は、イスに座っている
Kの胸ぐらをつかみ怒鳴りつけた。
K : すみません…
小川 : お前さ、何考えてんの?今日がどういう日だったか分かってんの?H社長との約束だったんだぞ。
お前も来て事情説明をするはずだったのに、連絡もせずにブッチするってどういう神経してんの?
K : はい…
小川 : 「はい」、じゃなくてよ!一体何考えてんだって聞いてんだよ!
K : ……
小川 : お前さ、どう考えても行動がおかしいよ。何か隠してるだろ?
K : いえ…
小川 : お前のパソコン持って来て。そんで銀行の残高と取引履歴を目の前でログインして見せて。今すぐ。
Kの顔色がさらに険しくなった。
しかし、
もう隠しきれないと観念したのか、
パソコンを目の前に持って来て、
メインバンクの口座にログインをはじめた。
見たいけど、見たくない。
真実を知るのが怖かった。
もう悪い結果しかイメージできない。
……そして今回の真相が
目の前のパソコンに表示された。
そこで残高を確認した時、
最悪の事態が起こっていたことを理解した。
メインバンクの残高が、わずか5万円。
きっと「目を疑う」というのは、
このような場面に使うのであろう。
小川 : メインバンクの残高が5万円って、どういうこと?お客様から預かったお金も入っている口座だよね。なんでこんなことになってるの?
K : …
小川 : 運用に失敗してたんだろ。
K : ……
小川 : いいから本当のこと言えよ!
再び私はKの胸ぐらを掴み、
座っているKを怒鳴りつけた。
K : はい…
小川 : いつから?
K : あの…
小川 : いや、言わなくてもいいわ。取引履歴見せて。
Kが取引している
証券会社にログインさせて、
取引履歴を出した。
目の前でログインをさせているから
もう誤魔化すことはできない。
これでここまでの経緯が分かる。
しかしその取引履歴は、
私をさらなる地獄に突き落とす
恐ろしいものであった。
KのFXの取引履歴を見ていると、
社債を集め始めた時から、
ずっと負け続けていた。
そして、8月には
取引自体をしていなかった。
どういうことだ?
集めたお金がキレイに
無くなっているが、
そもそも2,000万円近くの
プール金があるはずなのに、
それはどこにいったんだ?
小川 : これって、取引がずっと負け続けてたってことだよね。
K : はい…
小川 : だったら8月からFXの取引自体してないの?
K : はい…
小川 : だったら、8月以降に社債で集めたお金はどこに消えたの?
K : 先に社債を購入していた方への利息の支払いにあてました。
小川 : 毎月俺に見せてくれてた、2,000万円近いプール金は?どこに消えたの?こんな突然無くなるなんて考えられないんだけど。
K : ……
小川 : お前さ、もうここまできて隠せると思ってんの?時間がもったいないから、嘘つかずに全部話せよ。
冷静さを失わないように必死だった。
怒りで理性が飛ばないように、
できる限り淡々と話すようにした。
K : あの残高証明は僕が作ったものです。実際には、プール金はありません。
小川 : えっ?
ボクガ ツクッタ?
Kの言葉を理解するのに、
一瞬時間がかかった。
確かにKはこう言った。
残高証明を「自分で作った」と。
小川 : ってことは、あの残高証明はお前が偽造したものってこと?
K : はい…
小川 : 最初からプール金なんて存在してなかったの?
K : はい…
頭が真っ白になった。
予想を超える事態に
思考が追いついていかない。
小川 : お前がずっと勝ち続けているトレーダーっていうのも嘘?
K : ……
小川 : お前が俺に見せてた取引履歴も全部嘘か?
K : ……
何がどうなっているんだ?
誰か本当のことを説明してくれ。
頼むからこの現実を嘘だと言ってくれ。
Kの取引履歴も嘘。
勝ち続けているトレーダーというのも嘘。
銀行の残高証明も嘘。
利益が順調に出ているのも嘘。
本当は何一つうまくいっていない。
利益も出ていない。
プール金もない。
お客様から預かった資金も……ない。
こんな現実、
とても受け止めきれない。
まさか銀行の残高証明まで
作り変えているとは。
文書偽造ってことは、
これって詐欺ではないのか。
小川 : お前、これって詐欺じゃん。分かってんの?自分が何をしたのか。
K : はい…
知らなかったとはいえ、
俺も周りの方達を詐欺投資に
巻き込んでしまったのか。
終わったな…
マジで終わった。
もう何をどうしたらいいのか
本当に分からない。
少しの間、私の思考は
完全に停止してしまった。
幸せの絶頂からの急転落
Kから事実を伝えられても、
すぐには考えをまとめることは
できなかった。
現実を直視できない。
考えがまとまらない。
無くなったお金を
どうやって取り戻せばいいんだ?
2,000万円だぞ。
普通に生活している
人間からすると大金だ。
一体、どのツラ下げて
皆さんにお詫びすればいいんだ。
自分自身のことを考えても、
収入が完全に途絶えている。
翌日からどうやって
生きていくかも考えながら、
事態を収拾しなければいけない。
小川 : まずは、お客様にこの状況を説明しないといけないから、朝一でお客様全員に連絡して、ここに来てもらおう。
K : はい。
その時には夜中の4時を回っていた。
まだ頭の中で整理ができていない。
Kと音信不通にならないように、
その日はKの家に泊まることにした。
起こってしまった最悪の事態に、
不安で押し潰されそうになっていた。
明日が来なければいいと願ってしまった。
しかし、容赦なく時間は流れていく。
数時間後には、
お客様全員に連絡をして
事情を説明しなければいけない。
数日前に銀行口座が
凍結したと言っておいて、
そこから資金が全て
無くなったと伝えることになる。
お客様は12名。
損失額は2,000万円を超えている。
しかも、ほぼ全員が
自分経由のお客様だった。
つまり、友人・知人を
巻き込んでしまったのだ。
あれだけ信頼してくれて、
大切な資金を任せてくれたのに
申し訳が立たない。
でも、せめて今だけは…
一瞬だけでもいいから
現実逃避をさせてください。
そう願い、私は短い眠りについた。
次の日から押し寄せてくる
激動の数ヶ月に、私は容赦なく
のみ込まれていくのである。
・・・
・・・
第七話に続く
【前の話】第六話 [sitecard subtitle=関連記事 url=https://koji-ogawa.com/toushisagi-06=] 最悪の一夜が明けて 悪夢のような 事実発覚から一[…]