【前回の話】第三話
音信不通から一夜明けて
Kと連絡が取れないまま翌日を迎えた。
携帯を何度確認しても、Kから着信やLINEの返事はきていない。
ここまでくると、さすがに何か重大なことが起きていると察しがつく。
Kと音信不通をきっかけに、これから起こるかもしれない様々なリスクについて考え始めた。
自分が気づかないうちに、もし最悪の事態が起きていたら…
ネガティブな想像が次々と頭をよぎる。
色々なリスクは思い浮かぶが、結局はKと連絡が取れなければ事態は何も進展しない。
一体どうすればいいのか。
私は事業拡大に目を奪われていて、大切なところが見えていなかったのかもしれない。
このままでは数日後に控えている投資ランチ会の開催自体が危ぶまれる。
Kが住んでいるマンションに行きインターホンを鳴らしてみるものの全く反応はない。
私はどうすることもできず、Kの連絡を待つことしかできなかった。
ここが暗い暗い谷底へ転げ落ちる第一歩になるのである。
ランチ会前日
投資ランチ会前日。
いまだにKと連絡が取れていなかった。
私は投資ランチ会参加予定の方達に、ランチ会が中止になったことを伝えた。
Kがインフルエンザになったと止むを得ず嘘をついたのだ。
まだ状況確認が何も済んでいないこの段階では、Kと連絡が取れなくなったとは、参加者に伝えることができなかった。
心苦しいが何とかその場を誤魔化すことにした。
幸い参加予定の方達は、全員私が声をかけた方達だったので、滞りなく中止の連絡をすることができた。
ひとまずホッとしたが、これで事態が良くなったわけではない。
すぐに私は、Kにこのようなメッセージを送った。
「何があったのか分からないけど、何か事情があるんだろ?でも状況を説明してくれないと、こっちも何もサポートしてあげられない。明日、投資ランチ会を開催するホテルで待ってるから、絶対に来いよ。投資ランチ会はお前が来ないと成立しないんだから」
Kには投資ランチ会を中止にしたことは伏せておいた。
その方がKと会える可能性が高くなると考えたからだ。
参加予定だった方達が、インフルエンザだと思っているKに直接連絡を取るとは思えない。
マンションのインターホンを鳴らしても反応がない以上、何とかKに直接外に出てきてもらうしかない。
一縷の望みにかけて、翌日投資ランチ会開催予定のホテルでKを待つことにした。
Kと連絡が取れなくなって数日しか経っていなかったが、一週間以上待たされている感覚になっていた。
投資ランチ会当日
結局、Kからは何の連絡もなく投資ランチ会当日を迎えた。
私の不安はますます大きくなっていた。しかし、くよくよしていても仕方がない。
ひとまず投資ランチ会を開催するはずだったホテルで、Kを待つことにした。
朝から何度か電話をしているが、Kからの返答はない。
諦めかけていたその時、KからLINEでメッセージがきた。
待ちに待ったKからの連絡。
私は慌ててKから送られてきたメッセージを開いた。
メッセージには「連絡を返していなくて申し訳ない」ということと「今は外に出られない」ということが書かれていた。
はっ?ふざけんなよ。
そのメッセージを見て理性が飛びそうになった。自分も切羽詰まっている状況だったので、Kのメッセージに心底腹が立った。
今まで連絡を無視して、きちんとした理由も説明せずに、今は外に出られないだと?
理由を説明する責任があるだろう。どれだけ振り回せば気が済むんだ。
そもそも投資ランチ会はどうするつもりだったんだ?
参加者にも迷惑をかけておいて、このまま出てこないなんて許せない。
私はすぐにKにLINEでメッセージを送った。
「そんなメッセージだけで納得できると思う?LINEじゃなくて電話で説明しろよ」
否応にもLINEで送るメッセージに怒りが込められてしまう。
するとKから「電話できる状態ではありません」という返答がきた。
結論のみしか言わないので、状況が全然把握できない。
「それは電話ができない場所にいるってこと?」
「いえ、メンタル的な問題です」
そのメッセージを見た瞬間、プツンと理性が飛んでしまった。
「いいから電話に出ろよ。このままで解決すると思ってるのか?解決する意思があるなら、電話に出なさい!」
メッセージを送ってから、LINEが既読になっているのを確認し、私はKに電話をかけた。
プルルル、プルルル・・・
すぐには電話に出なかったが、数コール目でようやくKが電話に出た。
怒りの感情を必死に抑えながら、Kに話を切り出した。
小川:どういうこと?何で連絡返さなかったの?
K:・・・
小川:黙っていても分からないよ。
K:はい…
小川:電話じゃ伝わらないから、直接会って話を聞かせて。今、投資ランチ会をする予定だったホテルにいるから、そこの一階の喫茶店に今すぐ来て。
K:今からですか?
小川:あたり前だろ!すぐに準備して出てきなさい!
K:分かりました。
完全に頭に血がのぼってしまった。Kに怒りの感情をぶつけ、怒鳴り散らすようにして電話を切った。
もはや冷静に判断ができるようなメンタルではなかった。そして、この時の自分には最悪の状況が頭をよぎっていた。
もしかすると、Kは預かっていた資金を溶かしてしまったのではないだろうか。
しかし、銀行の残高証明は毎月確認している。まさかいきなり全資金が無くなっていることはないだろう。
私は悪い予感が浮かぶのを必死で抑えつけていた。
そして、ようやくKが姿を現した。
時間にして1時間程度だったが、本当に長く感じた1時間であった。
銀行口座の凍結騒動
姿を現したKだったが、いきなりダンマリを決め込んでいた。
小川:一体何があったの?
K: ・・・
小川:黙っていても分からないよ。
K: ・・・・・・
このKの態度にカーッとなってしまった。
小川:黙っていたら分からないだろ!っていうか、そもそも今回の件で周りの人に迷惑かけてんだぞ!まずは謝るのが筋じゃないのか!?
ホテル1階の静かなカフェで、思わずKを怒鳴ってしまった。
K:申し訳ございませんでした…
元々言葉が足りず説明ベタなKだったが、今回は今まで以上に言葉を発さない。
怒鳴ってもKが委縮するだけだと判断して、ゆっくりとKの回答を待つことにした。
小川:黙っていても解決しないよ。ゆっくりでいいから、状況を説明して。
K: ・・・
そしてKはゆっくりと口を開き始めた。
K:申し訳ございません。顔を合わせるのが怖くて。
小川:それは分かるよ。じゃなきゃ、こんなことになってないし。なぜこんなことになったのか、理由を説明して。
K:…実は、銀行口座が凍結されてしまいました。
小川:口座が凍結?どういうこと?
K:理由は分かりませんが、メインで使用している口座が、いきなり凍結されて送金などができなくなってしまいました。今回小川さんの報酬が反映されなかったのも、それが原因です。
小川:でもおかしくない?何で急にそんなことになったの?
K:おそらく、色々な方にお金を送金していたので、何か銀行の規約に引っ掛かることがあったのだと思います。
小川:んー、そんなことあるのかね。聞いたことないけど。
K:僕自身も初めての経験です。
小川:ってかさ、運用に失敗して資金を無くしたとかじゃないの?残高が足りなくても、当然送金はできないよね。
K:それは大丈夫です。資金はちゃんとあります。損失を出しているということでもありません。
銀行の残高証明もお見せできます。本当に銀行口座が凍結されただけです。
そのKの回答に、ホッと胸を撫で下ろした。最悪の事態は起こっていないようだ。
K:しかし、口座が凍結されて、動かせるお金がほとんどない状況です。おそらく社債購入者への利息の支払いもできていないと思います。確認はしていませんが。
小川:マジ!?それって超ヤバいじゃん。なんでそんな大事なこと言わなかったの?
K:申し訳ございません…
なぜ銀行口座が凍結されたのかは
調べないと分からないが
社債購入者の利息の支払いが滞っているこの状況を早急に対応する必要がある。
これは放っておくととんでもないことになる。
すぐに社債購入者に連絡をして、全員と直接会うことになった。
そして、Kにはできる限り冷静にこのように伝えた。
小川 : また今回のようなことをしたら、パートナーを解消するからね。社債購入者にお金も全部戻してもらうよ。
今まで頑張ってきたものが無くなるのはツライけど、信頼できない人と一緒にビジネスをすることはできないからね。
今回のように音信不通になるなんて論外だよ。何か問題が起こったら、まずは相談して。そうしないと、こっちもどうしていいか分からないからさ。
できる限り優しく、Kを諭すように伝えた。
しかし、銀行口座が凍結されるなんて生まれて初めての経験だ。
一体どのように対応すればいいのか解決策は全く分からない状況だった。
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・・・
第五話に続く