【前回の話】第6話
「A社のビジネスはもう古い」
「まだそんなことやってるの?」
A社でビジネスをしていると、色々な批判に晒される。
僕はネットワークビジネスをやってた頃、嫌だなと思ったことがある。
それは、必要以上に不安を煽るトークが多いこと。
そして他社批判が多いことである。
確かに、僕自身もセミナーでは多少不安を煽るトークを使う時もある。
しかし、ネットワークビジネスの業界では特にそういう場面が多いと思う。
「やりたいことは何?」
「今のままでそれが叶う?」
「しかも給料も上がりにくい時代だし、ずっと会社に居られるか分からないよ」
「増税で若者の負担は増えるし、年金も出るか分からない。将来の保障もないんだよ」
「今のままでやりたいことが叶わないなら、新しいことを始めないと」
「このビジネスならあなたの夢が叶うかもしれないよ」
「本当に今のままでいいの?今のまま会社にいても夢は叶わないんでしょ?」
「このまま時間だけが過ぎてあっという間に年と取ってしまうよ」
「一緒にやろうよ!」
このブログをご覧頂いている中にも「あっ、そんな感じのことを言われたことある」という方がいるかもしれない。
まぁ、鉄板トークである。
そして業界全体で他社批判が多い。特にA社は槍玉に挙げられる。
A社のビジネスにくじけていた僕は、新興勢力M社の話を聞くことになる。
それは予期せぬところから、話がくることになるのであった。
母親からの提案
知っている方もいると思うが、僕の産みの母親は、高校3年生の時に他界している。
母が他界してから、数年後に父親は再婚した。
今は離婚が成立しているので、すでに母親ではないのだが。
当時は父は再婚したばかりで、母は個人で事業を行っていた。
母は、僕がA社のビジネスをやっていたことも知っていた。
そして、母は僕がA社のビジネスをやっていたことを快く思っていなかった。
しかし、ある日母から「メイクアップの店舗を構えてる社長とご飯に行くんだけど、コウジ君も一緒に行かない?」と誘われた。
それは願ってもないことだ。ぜひ、お会いしたい。
こうして僕は、メイクアップの店舗を構えている社長さんと会う段取りをつけてもらったのだ。
初めて入るメイクアップのお店
僕と母は、メイクアップの店舗を構えている社長さんに会うために、その社長さんがいる店舗に足を運ぶことになった。
※その社長さんをここからはHさんと記載
Hさんは札幌中心部にメイクアップの店舗を構えていた。スタッフが数人いて、キレイな店舗である。
僕はメイクアップのお店なんて生まれてから一度も入ってことがない。メイクをしてもらう必要性がないから、当然と言えば当然なのだが。
それにしても、きらびやかなお店でなんだかソワソワしてしまう。
落ち着かない感じで待っていると、お店の奥からHさんがやってきた。
ここから僕は、母親の大いなる騙し討ちに遭うことになるのである。
A社のビジネスを散々こき下ろされる
Hさんは僕の向かい側に座った。
そしてHさんの隣には看護師の婦長さんが座り、僕の隣に母が座った。
そして世間話をしている時、Hさんから「君は何をしている人なんだ?」と質問を受けた。
すると母が「コウジ君は、A社のビジネスをやっているんだよね」と話を振ってきたのだ。
いや、言うなよ!
すでにA社のビジネスを伝えるモチベーションが下がっていた僕は、この母のツッコミに若干の苛立ちを覚えた。
「なんだ。君、A社のビジネスをやっているのか?俺も昔やっていたんだよ」
「えっ?」
これには驚いた。
話を聴いていくと、Hさんは昔A社のビジネスをやって、そこそこの収入を得ていたようである。
宝石の名前がつくタイトルを取っていたことから、それなりの収入があったことが予想された。
「なんでやめてしまったんですか?」
単純に興味があった。
「いや、今もやめてはいないよ。たまに買い物もしてる。でもビジネスでは全然動いてないね」
「どうしてビジネス活動をやめてしまったんですか?」
「A社のビジネスは難しいからね。君もそう思わないか?」
「んー、そうかもしれないですね」
確かに難しいと思っていた。
「偉そうに聞こえるかもしれないけど、俺はできるんだよ。マーケティングプランの説明も製品のデモンストレーションも できるし、直紹介も出していける。別に断られてもメンタル的にめげることもない。
でもこのビジネスって、伝えた人が成功しないと上のタイトルは取れないからね。自分ができてもグループのメンバーがどんどん挫けていくんだよ。それで難しいと思って、ビジネス活動をやめてしまったね」
「そうだったんですね」
自分が抱えていた悩みよりもはるかにレベルの高い悩みだったが、理解できる内容であった。
そして、Hさんは話を続けた。
「君、今からA社のビジネスを続けても難しいぞ」
「確かに難しいとは思いますけど、不可能だとは思いません」
「君、ピンレベルはなに?SPくらいにはなったの?」
※SPとはA社の最初のタイトル。収入で15万円~20万円くらい。
「なっていないです。パーセントです」
※パーセントとはタイトルなしの状態。数百円から数万円の収入。当時の僕は数千円の収入であった。
「どれくらいやってるの?」
「1年数ヶ月です」
「1年以上やっててパーセント!?」
「はい、そうですけど…」
「1年以上やってSPにもなれなくて、どれくらいの期間やれば、成功できると思っているの?」
「そ、それは…」
悔しいが何も言い返せない。
「まぁ、ここで長話もなんだから、予約してた店に飯を食いに行こうか」
メイクアップのお店から出て、予定通りご飯を食べにいくことになった。
僕はHさんから痛いところを突かれまくり、かなりテンションが下がっていた。
「くそっ、母が余計なことを言わなければ」
楽しみにしていた食事会が、一瞬にして居心地の悪い場になってしまった。
メイクアップ事業の経緯など、聞きたいことも沢山あったのに。
A社のビジネスの話が尾を引きそうな雰囲気である。
そして僕、母、Hさん、看護師の婦長さん。
この4人でお店に行ったのであった。
小上がりの個室で、落ち着いた雰囲気のお店だったと記憶している。
気分を切り替えて違う話題にしよう。
そう思っていたのだが、悲しいことに僕の望む方向にはいかなかったのである。
小川、新興勢力M社の話を聴く
「A社のビジネスは難しいぞ」
お店に到着して早々に、話題をA社のビジネスに戻されてしまった。
「いや、その話はもういいから」
内心そう思っていた。
しかしHさんが、その話題から離れたがらない。
そうこうしているうちに、話の流れがおかしな方向に行き始めた。
「コウジ君、M社のビジネスの話を聞いたことはあるか?」
「M社ですか?ビジネスの話は聞いたことないです。名前は聞いたことありますけど」
「そうか。実は今、俺はM社のビジネスに取り組んでいるんだよ」
その時、ピンときた。
まさか…
僕はその場で母親に確認した。
「M社のビジネスやってるんですか?」
「いえ、まだ登録してないけど、私もやろうと思っているの」
うわっ、ハメられた。完全に騙し討ちである。
「えっ、まさか今日はその話のために呼んだんですか?」
「いや、そういうわけじゃないの。本当にHさんを紹介して、食事ができればと思って」
どう考えても嘘っぽい。わざわざ騙し討ちなんてしなくても、話くらい聴くよ。
内心、色々とツッコミたかった。
しかし、客観的に考えてもこの状況は非常にマズイ。
M社のビジネスをしている3人に囲まれている状態だ。
A社のビジネスがうまくいかなくてめげている26歳の小川では、太刀打ちするのは困難である。
完全に「ネギを背負ったカモ」状態である。
こうして僕は、個室のお店で延々2時間、M社の話をされることになったのである。
モメンタムのインパクト
Hさんは、A社のビジネスで成功するのがいかに難しいかを僕に色々な角度から説明してきた。
その中の一つに「モメンタム」という言葉があった。
モメンタムとは、日本語で表現すると
「勢いがある」
「急成長している」
「弾みがついている」
というイメージだろうか。
つまり、ビジネスをするのであれば、これから急成長するビジネスに乗っかった方が、圧倒的に早く簡単にビジネスを伸ばすことができる。そのような考え方である。
その考え方には、僕も同意できた。
そしてH社長は話を続けた。
「A社のビジネスで最高タイトルを取っている人のほとんどは、A社が日本に上陸してから5年以内にビジネスを始めているんだよ」
それを聞いた時は驚いた。
僕がいた時は、A社に15組のトップタイトル者がいた。
その15組中1組を除いて全員が、A社が上陸して5年以内にビジネスをスタートさせているというのだ。
本当なのか裏は取っていないので、正確な数字かどうかは不明である。
しかし、当時いた15組のトップタイトル者の多くは、A社が日本に上陸してから5年以内にビジネスをはじめたのは、ほぼ当たっている話だろう。
どのビジネスにも伸び始めるタイミングがある。
そのタイミングを掴めるかで、事業の発展スピードは大きく違ってくる。
Hさんから話を聞いたとき、M社は日本に上陸してまだ1年しか経っていなかった。
しかも、M社はすでに急成長を始めており、これから売上が急激に伸びていくことが予想された。
「これだけ大型の会社が上陸するチャンスは、しばらく訪れない」
「この流れに乗った方がいい」
「今が本当にチャンスだぞ」
「俺が全力で収入を取らせてやるから」
という話をされていった。
Hさんの話は、A社のビジネスにめげていた僕には、非常に魅力的に聞こえた。
確かに、Hさんの言う通りかもしれない。素直にそう思った。
A社のビジネスを経験していただけあって、Hさんの話には説得力があった。
A社のビジネスをこき下ろされ、M社の魅力を伝えられる。
こうして僕は、完全にタコ殴り状態でM社の話をぶち込まれることになった。
3対1の状態で延々2時間、M社のビジネスの話をされ、僕のメンタルはボコボコにされていったのである。
小川の気持ちがグラつく
お店も席の時間が終わり、ようやくM社の話から開放されることになった。
「ようやく終わった…」
メンタルをタコ殴りにされた僕に、どっと疲れが押し寄せてきた。
「M社のビジネスに興味が出たら、いつでも連絡して」
Hさんはそう言って、帰宅していった。まるで嵐が去った後のようだ。
僕も母親と分かれて、家路を急いだ。
秋の北海道は肌寒い。しかも終電が終わり、家まで徒歩で帰ることになった。
さらに、あいにくの雨でビショビショになって寒さに震えながら、である。
その時の僕は、言葉で言い表すのが難しいくらい複雑な気持ちになっていた。
A社をこき下ろされた悔しさ。
M社から感じる可能性。
「くっそーー!言いたい放題言いやがって!むかつくーー!!」
騙し討ちをされて、A社のビジネスを散々否定される。
でも「一理あるな」と思っている自分がいる。
「くそっ!マジで何なんだよ!」
モヤモヤが消えない。
深夜の帰り道、僕は言い表せない衝動を抱えながら一人帰り道を歩くのであった。
・・・
・・・
第七話につづく