【前回の話】第6話
翌日。
「ったく。何だったんだよ、昨日のは。」
M社の話を聞いて一晩経ったが、全く気持ちがスッキリしない。
心のどこかに引っ掛かる
Hさんの言葉。
「A社のビジネスは古い」
「モメンタムのタイミングでビジネスに参入した方がいい」
悔しいが、聞いていて納得のできる話だった。
しかし、せっかくA社のビジネスを頑張ってきて、良くしてくれたアップラインの方達もいる。グループのメンバーも少なからずいる。
M社のビジネスを始めると、その方達を裏切ってしまうようで気が引けてしまう。
しかし、このままA社のビジネスを続けていても、ジリ貧だろう。
月30万円稼げるようになるまで、10年掛かる気がしていた。
「成長速度の遅いA社のビジネスを頑張り続ける」
「モメンタムというビックウェーブに乗っかってビジネスを拡大させる」
僕の頭の中には、このような2択のイメージになっていたのだった。
小川、M社のビジネスをやろうと決意する
僕は再びHさんに連絡を取った。
もう一度会って、M社のビジネスをきちんと理解してから決めようと思ったのだ。
この時には、もう気持ちは半分以上動いていたのだろう。
僕はHさんのメイクアップの店舗に伺う約束を取りつけた。
前回来た時もそうだったが、このお店に来ると落ち着かない。
完全に場違いな空気感がある。
「おう、いらっしゃい」
お店の奥からHさんがやってきた。
それから僕は、HさんからM社のビジネスについてじっくり話を聞くことになった。
アマゾンの奥地で採れるミラクルフルーツ
M社の製品は、一言で言うと「健康ジュース」である。
僕が話を聞いた当時の製品は、健康ジュースだけだった(その後ラインナップは増えていったらしいが)
どのようなジュースかと言うと、
アマゾンの奥地で採れるアサイーというミラクルフルーツを使った健康ジュースである。
近年では、アサイー関連の商品を見かける機会もあると思う。アサイーを流行らせるきっかけを作った企業と言ってもよいだろう。
アサイーは非常に栄養価が高く、様々な効果効能が期待できるミラクルフルーツであった。
そんな凄いジュースだったのか…
前回も簡単な製品説明を受けていたはずだ。しかし、全然覚えていなかった。
騙し討ちをくらったこともあり、防衛本能が働いたのだろう。
前回、頭に入らなかったことも冷静に話を聞くとよく理解できた。
報酬プランは「バイナリー」という右と左にグループを伸ばしていくものだった。
バイナリーのプランは、M社で初めて聞いた。
A社のブレイクアウェイとは全然別物のプランだと思った。
※プランの詳細については割愛
それにしても、話を聞けば聞くほど
凄い会社だと感じた。
ある年の成長率が、
1.Google
2.M社
3.インテル
という急成長ぶりだ。
こんな会社が日本に上陸したなら、絶対に流行るはずだ。
そう思ってしまった。
「可能性の大きな会社でビジネスを伸ばしていきたい」
Hさんの話を聞いて僕はビジネスをやる決意をした。
騙し討ちをくらって気分は良くなかったが、そこはグッとのみ込むことにした。
しかし、M社のビジネスをやると決めた瞬間に、次の悩みが僕の頭をよぎった。
A社のビジネスで関わってきた皆さんには、なんて説明をしたらいいんだろう。
本音では言いたくなかった。
メンバーの期待を裏切ってしまうのが目に見えていたからだ。言うのは心苦しかったが、言わずにいるわけにはいかない。
僕はまず、G君に連絡をして自分の気持ちを伝えることにした。
G君への報告
G君との待ち合わせ当日。
もうどこで会ったかは忘れてしまったが、札幌中心部のカフェで話をしたはずである。
G君がお店にやってきた。
当然、G君は僕がA社のビジネスをやめようと思っているなど知るよしもない。
僕を見つけると、G君は笑顔で駆け寄ってきた。その笑顔が僕の罪悪感をより一層掻き立てた。
何だかんだで、僕はG君には結構期待されていた。
グループは伸びていなかったが、アポイントも取るし、直紹介もコツコツと出していく。ミーティングへの出席率も非常に高かった。
そういう姿勢をG君は買ってくれていたのだ。罪悪感が押し寄せてくる。
ヤバい、帰りたい。
G君は僕の前に笑顔で座った。
そして「コウジさん、今日はどうしましたか?」と尋ねてきた。
このタイミングで言うしかない。
「実はね……、A社のビジネスをやめようと思っているんだ」
G君の表情が一瞬にして険しくなった。
「それはどうしてですか?最近もがんばって動いていたのに。何かありました?」
「違うビジネスをやろうと思っているんだ。M社って聞いたことある?」
「いえ、聞いたことないですね」
「新しくアメリカから上陸した会社なんだけど、その会社のビジネスをやろうと思ってるんだ」
「・・・・・・」
G君の言葉が止まった。
そして少しの沈黙の後、G君は再び口を開いた。
「なぜ、M社のビジネスを?A社のビジネスとの違いは何ですか?」
「一言で言うと、タイミングかな。これからM社のビジネスが伸びると思ったんだ。俺にはA社のビジネスは難しいよ」
正直に、思っていることを伝えた。
「そうですか。分かりました。Oさんには僕から伝えておきます」
「そっか、ありがとう」
「話はこれだけですか?」
「うん、そうだね」
「それなら、僕はこれで失礼します」
用件を伝えると、G君はすぐに帰ってしまった。
当然か。ほかに話すことなんて無いもんな。
何はともあれ、G君にきちんと伝えられて良かった。
きっと、これから気まずくなってしまうんだろうけど。
こうして僕は、M社のビジネス活動を本格的にスタートすることになるのであった。
小川、M社のビジネスをスタート
A社でアポイントの取り方や繋げ方を学んでいた僕は、M社のビジネスを比較的スムーズにスタートすることができた。
基本的には、A社の時とやることは変わらない。
アポイントを取り、Hさんに繋ぐ。どんどんアポイントを取り、Hさんに繋いでいった。
正直、A社の時と比べて圧倒的に伝えやすかった。
そもそもM社のことを知らないひとがほとんどだ。
「なに、それ?」という真っ白な状態なので、こちらで興味づけさえできればHさんに繋ぐのは難しくなかった。
こうして僕は、M社のビジネスに力を入れていくのであった。
小川一気に紹介を伸ばす
ビジネスをスタートさせた僕は、順調に紹介者を出していくことができた。
その要因は大きく言うと2つあると思う。
一つは、M社のビジネスがA社と比べて伝えやすかったこと。
M社の製品はアサイーの健康ジュースしかない。
話をする側としては、沢山の製品があるよりも圧倒的に伝えやすかった。
そして2つ目は、僕自身が自信を持ってビジネスを伝えられたこと。
この2つの要因が大きかったと思う。
特に自信があることは、相手の心にも響きやすい。
僕はM社のモメンタムの時期にビジネスに参入できて、本当にラッキーだと思った。
こうして僕は、Hさんの力を存分に借りながら、グループ人数を一気に30人程度まで拡大することができたのだった。
A社で一年数ヶ月掛かっても出来なかったことが、M社のビジネスでは2~3ヶ月ほどで出来てしまった。
トップリーダーからすると非常に遅いペースかもしれないが、僕にとっては確かな手応えだった。
こうして僕のM社のビジネスは好調な滑り出しで発信した。
このペースで伸びていけば、一年後には数百人のグループになっているかもしれない。
基本的にネットワークビジネスで200~300人のグループ人数がいれば月収で30万円以上になる。
そうすれば、M社のビジネスだけで生計を立てることも十分可能である。
A社の時とは違い、グループの中にもビジネス意識のある人が出てきた。
「今度はイケるかもしれない」
そう感じていた。
しかし、喜んでいたのも束の間。また新たな問題が浮上してきた。
ネットワークビジネスに慣れていない僕にとっては、いつも何かしらの問題が浮上してくる。
新たに出てくる壁によって、僕のM社のビジネスは、暗礁に乗り上げてしまうのだった。
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第8話につづく