【前回の話】第9話
Sさんからのプレゼン
Iさんのホームパーティーから数日後。
僕はIさんのホームパーティーで約束した通りSさんのオフィスに伺うことになった。
Sさんは一軒家を改装してオフィスとして活用していた。
木造の一軒家で、中の雰囲気も良い。落ち着ける雰囲気である。
「なんか良い雰囲気だな」
外観を見ている限りでは、とても車屋さんだとは思えない。
変わっているオフィスだが、非常に好感が持てた。
こんな自動車屋さんがあるなんて面白いな。
こうして僕は、Sさんのオフィスで新しいネットワークビジネスの説明を受けることになるのだった。
リピート率94%のネットワークビジネス
新しく話を聴く会社は、前に取り組んだM社と同じ頭文字で、同じくM社である。
分かりにくくて恐縮なのだが、ここからの説明でも「M社」にしたいと思う。
M社の話を聞いていったが、僕のイメージしているネットワークビジネスとはかなり違う会社だと思った。
まず、M社の特徴として挙げられるのは、製品価格とリピート率だ。
通常、ネットワークビジネスの製品は、ドラッグストアやスーパーで売っている日用品よりも価格は高い。
しかし、M社では製品の価格をドラッグストアを意識した価格帯に抑えている。
ライバル視しているところや狙っているターゲットが明らかに違う。
しかし、価格が安いからと言って、製品の品質が悪いわけではない。
むしろ非常に良い製品だ。
天然由来の原材料を使い、高品質な製品を適正価格でメンバーに提供している。
この説明を受けた時はとても驚いた。
僕の中では「安かろう = 悪かろう」というイメージが少なからずあったからだ。
なぜ、そのようなことが可能なのか?
それを可能にしているのは、リピート率の高さである。
どういうことか。
リピート率が高い状態で安定していると、メーカー側は毎月製品の出荷予定量を高精度で調整することが可能だ。
すると余計な在庫を持たずに製造ラインを動かしていける。倉庫などで在庫を保管するコストを、極限まで圧縮することができるのである。
在庫が多くなればなるほど、保管用のスペース確保のために多額の資金が必要になる。それを圧縮できれば、製品価格を下げても利益が取れる仕組みを作れるのだ。
そのためM社の製品は、低コストにも拘らず品質は非常に良い物だった。
昔は、製品価格も今より高かったようである。
しかし、リピート率が安定してきた時期から製品価格も徐々に下がり、ドラッグストアと競合できるラインまで落としたようだ。
お客様にとっては、非常に良心的なメーカーだと感じた。
客観的に見ていると、薄利多売の戦略とも言える。しかし、リピート率が高いおかげで、会社自体の売上も伸び続けていた。
そもそもネットワークビジネスでも多くの企業は、製品原価を抑えて利益を取り過ぎている傾向がある。
「ネットワークビジネスの製品は良い」
このように言われてはいるが、全てのメーカーに当てはまるわけではない。
自社開発せずにOEMで製品を揃えているところもある。
※OEMとは他社メーカーの製品をラベル張り替えで販売すること
つまり他社から仕入れて 値段や製品名を変えて売っている。
OEMを悪いとは言わないが、メーカー直販とは言えない仕組みになってしまうのだ。
本当に良い製品を開発して、世に出そうとしているメーカーは、思った以上に少数派なのだと感じている。
ネットワークビジネスの製品は高い?
よく日用品を扱うネットワークビジネスの会社は「ブランドチェンジ」という言葉を使う。
「普段、使っている日用品の買う場所、ブランドを変えるだけ。それだけでビジネスメンバーは権利収入を得られるし、愛用者は高品質な日用品を使うことができる」という話である。
しかし、実際問題、一般市場との価格差はかなり大きな障壁になる。
それこそ日用品は毎日使うわけだから、少しでもコストを抑えたいと思うのが、本音だろう。
たとえ良い製品だとしても、費用対効果が見合わないと判断されれば、一般ユーザーは安い製品に流れてしまう。
もうずっと前の話だが、僕は以前、A社のビジネストレーニングに参加したことがある。
トレーニングで講師をしていたリーダーは「毎月3~4万円使っている日用品をA社の日用品に替えてもらうだけ。皆さん、毎月3~4万円くらい日用品使っているでしょ」と言っていた。
僕はそれを聞いたとき「いや、そんなに使ってねーよ」と心の中でツッコんでいた。
数人家族でも毎月3~4万円分の日用品を使っているか微妙なラインだと思う。
A社のようなサプリメントや高い化粧品を使っている方は、それくらいの額を使っているかもしれないが。一人暮らしの男性であれば、毎月1万円も使っていないだろう。
おそらく数千円くらいだ。少なくても僕は、日用品で毎月3万~4万円も使っていなかった。
こういう話をすると「だったら良い物が分からない人は相手にしなければいい」と、言うかもしれない。
しかし、ここで一つ疑問を投げかけたい。
これは僕が伝えたい重要なポイントの一つなので、ぜひ客観的な判断をして頂きたい。
なぜ、ネットワークビジネス人口は変わらないのか?
現在、ネットワークビジネスに関わっているのは日本全体で800万人ほどだと言われている。割合で6~7%程度だ。
なぜ、そのようなことが分かるのか。
根拠と断定はできないが「月刊ネットワークビジネス」という専門雑誌があり、そこでは定期的にディストリビューター数を計測、公表している。
それらの数字などから推測して、おおよそ800万人が業界に関わっていると言われているのだ。
日本の人口が1億2,000万人として、ネットワークビジネス人口が毎年800万人。そして、その人数は長年変わっていないと言われている。
不思議ではないだろうか。
これだけA社が日本に上陸したのは1979年。この記事を書いている2016年の時点では、37年目である。
それだけの年数が経過していたら、日本中の人が製品を使っていてもおかしくはない。良い製品であれば尚更だ。
しかし、そんなことにはなっていない。なぜなのだろうか。
ネットワークビジネス人口が変わっていないことから推測をしていくと、新しく参入する人と同数程度の人がフェードアウトして、製品すら使わなくなっていると考えられる。
その辺りに本質が隠れているのではないだろうか。
大体の場合、ネットワークビジネスに興味を持つのは「稼ぎたいから」である。つまりビジネス視点で参入してくる方が多い。
ビジネスでうまくいかないから結果、愛用者になっている人が非常に多いということだ。
逆に愛用者で入ってきて、ビジネスに転向する方の割合は少ない。
もちろんゼロではないが、愛用者は「良い製品なら使う」くらいの感覚である。
よほど製品に感動しない限り、口コミで人に勧める人は少ない。
つまりネットワークビジネスに関わる人の多くは、
①ビジネス目的で参入
②ビジネスがうまくいかなくて愛用者として製品を使うだけになる
③製品購入が経済を圧迫するため安い日用品に徐々にシフト
④結果ネットワークビジネスの製品を使わなくなっていく
このような流れが、長年ずーっと続いているのである。
つまりネットワークビジネスの製品は「愛用者として使い続けるメリットは少ない」と、マーケットの大多数は判断しているのだ。
だからネットワークビジネスの製品を使う割合はずっと変わらないし、同じことがグルグルと繰り返される。
これに反論がある方もいると思う。
では、なぜネットワークビジネスの会社の製品を使う人の割合が増え続けていないのだろうか?
なぜ、愛用者すらやめてしまう人が後を絶たないのだろうか?
Amazonや楽天などを見ていても本当に便利で良いサービスであれば、もっと使う人の割合が増えても良いはずだ。
そうなっていないのは、それなりの理由があると考える方が妥当だろう。
つまり、大多数のマーケットでは、日用品に対してそこまで高い金額を支払いたいとは考えていないのだ。
化粧品やサプリメントは、マニアックな好みが反映されるため高い金額でも買う人は多い。
しかし、洗剤などの日用品で家計を圧迫したいと考える人はごく少数であろう。
これらの理由から、ネットワークビジネスの製品が高いと思われても仕方がないと僕は考えている。
しかし、M社のビジネスは製品価格でも優位性があり、高いリピート率でお客様が積み上がっていく。
A社とM社で感じていた課題を今度こそクリアできるかもしれない。そう思ったのだった。
小川、M社のビジネスに心が動く
M社のビジネスの話を一通り聞いて、僕は改めてネットワークビジネスをスタートさせようと思った。
リピート率の高さに心が動いたのだ。
僕はA社の時は「A社のビジネスは古いのではないか?」という仮説を立て、M社の時は「リピート率が低いからではないか?」という仮説を立てた。
その時その時で、疑問点を解消してくれるビジネスが目の前に現れてくれる。
これには毎度驚かされる。
こうして再び、ネットワークビジネスをがんばり始めることになったのである。
リピート率の高さは数字のマジック?
ビジネスをスタートさせた僕は、気がかりだった点が2つあった。
製品の品質は本当に良い物なのか?
もう一つは、リピート率は本当か?
この2点である。
製品価格がリーズナブルなので、最初はどうしても品質が良いとは思えなかった。しかし、それは自分で製品を使って体感することで自信を深めていくことができた。
そしてビジネス視点で重要なリピート率。
これも会社のオーバートークの可能性も否定できない。
同じ業界の方に言われたのが「どうせ数字のマジックでしょ」ということである。
その数字のマジックがどのような真意なのか分からないが、少なくてもM社のリピート率は正しかったと自信を持って言える。
M社では毎月レポートが送られてくる仕組みなので、細かい数字を確認することができる。
‐新規の登録者
‐既存登録者の発注状況
‐リピート率
‐直紹介人数
‐グループ人数
‐現在のタイトル
‐次のタイトルまでのクリア条件
‐コミッション金額
などである。
僕は毎月レポートを確認したが、リピート率は91%~98%の間を推移していた。平均すると94%のリピート率は出ていたと思われる。Sさんが言っていたことは本当だと実感した。
ビジネス活動を始めて、すぐにビジネスパートナーもできた。
コツコツとグループ人数も伸びて50人近くのグループに成長した。
最高報酬が8万円ちょっと。
平均すると3~4万円ほどだったが、今までの会社の中で一番多くの報酬を得ることができた。
実際には製品も気に入っていて毎月3万円分くらい買っていたからトントンくらいだったが。
でも、かなりの手応えは感じていた。
M社の報酬プラン
M社は製品価格が安い分、還元される報酬額は多くなかったと思う。
報酬プランは「ユニレベル」と呼ばれるプランで、小さな金額をコツコツ積み上げていくイメージだ。
ネットワークビジネス業界で、有名な報酬プランは3つある。
‐ブレイクアウェイ
‐バイナリー
‐ユニレベル
それぞれの長所を取り入れたハイブリット型というのもあるが、基本的には上記の3つが代表的だ。
一応、僕は全てのプランを一通り経験することができた。
プランごとに大まかな特徴があり、完璧な報酬プランというのは存在しない。
しかし、僕個人の感覚で言うと、一番好きなプランはユニレベルである。
トップリーダーへの報酬還元額がバイナリーやブレイクアウェイに比べて下がってはしまうが、安定感があり、お客様にもメリットが大きいので良いなと思う。
同じタイプの報酬プランでも会社の方針によって全然別物になる。
どの層に還元を厚くしているのか。会社としてどのような意図があるのか。
それらは報酬プランに反映されている。それらを見ていくと、実に奥が深い業界だと感じる。
ネットワークビジネスは「権利収入」を得られるのか?
僕がネットワークビジネスをやっていて、たどり着いた一つの結論がある。
それは、今からネットワークビジネスに参入しても「権利収入」になる確率は極めて低いということである。
この辺りは誤解を招きたくないので、詳しく解説していきたい。
権利収入とは、債権の利息や株式投資の配当、独占販売権を得て自分が何もしなくても報酬が入り続ける仕組みを指す。
確かにネットワークビジネスでは「権利的な収入」と呼べる部分もある。
実際に上手くいっているリーダーは、自由に時間を調整して海外に行ったり、毎日を楽しんでいるのだろう。
つき抜けられれば、普通の働き方よりは圧倒的に自由になれると思う。
しかし、そのリーダーもずっとメンバーのフォローをせずに遊び歩いていたらどうなるだろう?
グループは崩れていくはずだ。
ネットワークビジネスは、情報を伝達していくビジネスである。その性質上、グループのメンバーは良くも悪くもアップラインを真似する。
もしリーダーが遊び歩く人なら、グループの中である程度のタイトルを取る人が出てきた時に、その人も遊ぶ側に回ってメンバーのフォローをしなくなる。
グループのフォローをする人が減っていくと、ビジネス活動に対しての活気が無くなっていく。
するとグループは、どんどん停滞していくだろう。
いくらリーダーが「皆もがんばったらこうなれるよ!」とモチベーションをかけても、成果が出なければビジネスメンバーのモチベーションはへし折れてしまう。
へし折れたモチベーションを再び奮い立たせるのは、容易なことではない。
グループを伸ばしているリーダーを見ていると、間違いなくちゃんと動いている。
グループのフォローもするし、ミーティングもトレーニングもABCもやっている。つまり働いているのだ。
A社のビジネスに初期で参入してトップタイトルを取ったリーダーは、もう安泰なのかもしれない。
しかし、中間層のリーダーは、フォローやミーティングなどビジネス活動を続けているはずだ。
それ以外でも、近年では不思議に感じる現象が起きている。
初期に参入してある程度のタイトルを取り、自由気ままに人生を楽しんでいたリーダーでも、また現場に戻って動いている人が出てきている。
それはなぜか?
全員とは言わないが、グループが崩れてきたから現場に戻ってきたリーダーも少なからずいるはずだ。
その事実を見て「なぜ、現場に出てきたのか?」と冷静に考える必要があるだろう。
客観的に見ていて「完全な権利収入」とは呼べない仕組みだと、僕個人は考えている。
ネットワークビジネスを取り組む際の重要な考え方
初めてネットワークビジネスに取り組む方が憧れる「権利収入」。
多くの場合、ビジネスを発展させるために必要な考え方がスッポリと抜け落ちている。
どんなネットワークビジネスも拡大していくためには「退会者」よりも「新規登録者」が多くなければいけない。
非常にシンプルである。
新規登録者が退会者を上回れば、そのビジネスは拡大していく。
しかしネットワークビジネス初心者は、一度メンバーになった人は、ずっとやめずに製品を買い続けると錯覚している。
そんなことはない。
どんなサービスでも一定数やめていく人はいるのだ。ネットワークビジネスも例外ではない。
もしあなたがネットワークビジネスにビジネスとして関わっているなら、グループのリピート率は冷静に分析した方がいいだろう。
毎月のリピート率が1%違うだけで、毎月積み重なると大きな差になるのだ。
ネットワークビジネスでグループが伸びて収益が安定する。それは高いリピート率があり、退会者よりも新規登録者が上回り続けるからである。
その原理原則を忘れてはいけないのだ。
再び訪れる壁
話を戻そう。
M社のビジネスを通じて、僕は、またしてもネットワークビジネスの奥深さを知ることになった。
ここに来て、また僕の前に新たな壁が立ちはだかったのだ。
50人弱のところからまたグループが停滞したのだ。
しかし、前のM社の時ほど状況としては酷くない。
グループが崩壊するのではなく「停滞」という表現が適切だろう。
リピート率が90%以上あるとはいえ、50人近くメンバーがいたら毎月1~2人はやめていく。
そのやめたメンバーの分、自分で毎月1~2人の新規を出して横ばいの状態が続いていた。
その横ばい加減を心電図で表したら、完全に死んでいる。
しかし僕の新規を紹介する能力では、毎月1~2人をリクルーティングするのが、精いっぱいであった。
やめる人と新規の登録が同じくらいのため、グループ人数も拡大しないし、収入も増えなかった。
「またかよ。ネットワークビジネスって難し過ぎだろ。それとも、俺が向いてないだけなのか?」
こうして僕は、再び挫折感を味わっていくことになるのだった。
小川の致命的な欠陥
僕がネットワークビジネスをしていて、結局克服できなかった致命的な欠点がある。
それは「確信が持てない」というメンタル的な問題である。
これはM社でも同様だった。
もちろんA社に居た時よりはずいぶん緩和されたのだが、それでも完全には無くならなかった。
正直、Webライターをしていてそのようになることは、ほとんどない。
あるとしたら、以前勤めていた会社で「このサービスってイマイチだな」と思ってライティングしていた時だけだ。
今は確信の持てることしか情報発信していないので、そういう点では悩むことはない。
しかし、ネットワークビジネスの製品やプランに絶対的なものはない。そして、ビジネスをやっても収入を取れずに挫折する人が圧倒的大多数。
それを自覚してしまっている以上、僕の心に確信という土台が出来上がることはなかった。
M社の製品も関わってくれている人も僕はいまだに大好きである。しかし、ビジネスが伸びていないと、ほかでお金を稼がなければ生きていけない。
こうして僕は、M社のビジネスから少しずつフェードアウトしていくことになるのだった。
真面目に約1年半取り組んだが、50人以上のグループを作ることはできなかったのである。
それから少し先に、最後にビジネスとして取り組んだF社との出会いがある。
F社も僕の仮説を証明してくれる優れた仕組みを持った会社であった。
最後の会社で、僕がどんな仮説を立ててビジネスに取り組んでいったのか。
包み隠さずお伝えしたいと思う。
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第11話に続く