【第6話】 投資詐欺で2,300万円の損失を出した全貌を赤裸々告白

【第6話】 投資詐欺で2,300万円の損失を出した全貌を赤裸々告白

【前回の話】第5話

「寒い…」

北海道の1月20日。

夜中の2時。

一刻も早くKの家に着くために人通りのない道を駆け足で向かった。

Kのマンションに着いたとしても、Kがインターホンのオートロックを開けるとは限らない。

もしかしたら、家から逃げ出しているかもしれない。

そうなればお手上げだ。

今は祈ることしかできない。Kがマンションにいることを。

そして、最悪の事態が起きていないことを。

私はただ祈ることしかできなかった。

お金に目がくらんで見えなかったKの本性

ピンポーン

息も整わないままKの住んでいるマンションのインターホンを鳴らした。

K : …はい。

Kがインターホンに出た。家にいる。確かにKは家にいる。

小川 : 開けて。

私はたった一言そう言った。

そして、Kのマンションのオートロックが解除された。

ようやくKと直接会うことができる。

この状況で、Kは最初にどのような言葉を発するのだろうか。

Kの部屋のドアの前に着くと、中から鍵が開けられる音がした。

そのまま部屋のドアを開けると、玄関にKが立っていた。

ドクンッ

鼓動が高鳴る。

Kの表情はどこか虚ろで、放心状態のように見えた。

言いたいことは腐るほどあるのに、うまく言葉が出てこない。

私が口を開こうとした直後、なんとKはそのまま何も言わずに部屋の奥へと入っていった。

あり得ない…

その行動に怒りが湧いてきた。

私は急いでKの後を追い、部屋の中に入った。

Kは私の存在を無視するかのように何も言わずに部屋に入って、イスに座りはじめた。

そのKの態度を見て私は怒りを抑えることができなかった。

小川 : まずはじめに言うことがあるだろうが!!

私は、イスに座っているKの胸ぐらをつかみ怒鳴りつけた。

K : すみません…

小川 : お前さ、何考えてんの?今日がどういう日だったか分かってんの?H社長との約束だったんだぞ。

お前も来て事情説明をするはずだったのに、連絡もせずにブッチするってどういう神経してんの?

K : はい…

小川 : 「はい」、じゃなくてよ!一体何考えてんだって聞いてんだよ!

K : ……

小川 : お前さ、どう考えても行動がおかしいよ。何か隠してるだろ?

K : いえ…

小川 : お前のパソコン持って来て。そんで銀行口座にログインして残高と取引履歴を目の前で見せて。今すぐ。

Kの顔色がさらに険しくなった。

しかし、もう隠しきれないと観念したのか、パソコンを目の前に持って来て、メインバンクの口座にログインをはじめた。

見たいけど、見たくない。

真実を知るのが怖かった。もう悪い結果しかイメージできない。

……そして今回の真相が目の前のパソコンに表示された。

そこで残高を確認したとき、最悪の事態が起こっていたことを理解した。

メインバンクの残高が、わずか5万円。

きっと「目を疑う」というのは、このような場面に使うのであろう。

小川 : メインバンクの残高が5万円って、どういうこと?お客様から預かったお金も入っている口座だよね。なんでこんなことになってるの?

K : …

小川 : 運用に失敗してたんだろ。

K : ……

小川 : いいから本当のこと言えよ!

再び私はKの胸ぐらを掴み、座っているKを怒鳴りつけた。

K : はい…

小川 : いつから?

K : あの…

小川 : いや、言わなくてもいいわ。取引履歴見せて。

Kが取引している証券会社にログインさせて、取引履歴を出した。

目の前でログインをさせているから、もう誤魔化すことはできない。

これでここまでの経緯が分かる。

しかしその取引履歴は、私をさらなる地獄に突き落とす恐ろしいものであった。

KのFXの取引履歴を見ていると、社債を集め始めた時から、ずっと負け続けていた。

そして、8月には取引自体をしていなかった。

どういうことだ?

集めたお金がキレイに無くなっているが、そもそも2,000万円近くのプール金があるはずなのに、それはどこにいったんだ?

小川 : これって、取引がずっと負け続けてたってことだよね。

K : …はい。

小川 : だったら8月からFXの取引自体してないの?

K : ……はい。

小川 : だったら、8月以降に社債で集めたお金はどこに消えたの?

K : 先に社債を購入していた方への利息の支払いにあてました。

小川 : 毎月俺に見せてくれてた、2,000万円近いプール金は?どこに消えたの?こんな突然無くなるなんて考えられないんだけど。

K : ……

小川 : お前さ、もうここまできて隠せると思ってんの?時間がもったいないから、嘘つかずに全部話せよ。

冷静さを失わないように必死だった。

怒りで理性が飛ばないように、できる限り淡々と話すようにした。

K : あの残高証明は僕が作ったものです。実際には、プール金はありません。

小川 : えっ?

ボクガ  ツクッタ?

Kの言葉を理解するのに、一瞬時間がかかった。

確かにKはこう言った。残高証明を「僕が作った」と。

小川 : ってことは、あの残高証明はお前が偽造したものってこと?

K : …はい。

小川 : 最初からプール金なんて存在してなかったってこと?

K : ……はい。

頭が真っ白になった。

予想を超える事態に思考が追いついていかない。

小川 : お前がずっと勝ち続けているトレーダーっていうのも嘘?

K : ……

小川 : お前が俺に見せてた取引履歴も全部嘘か?

K : ……

何がどうなっているんだ?

誰か本当のことを説明してくれ。

頼むから、この現実を嘘だと言ってくれ。

Kの取引履歴も嘘。

勝ち続けているトレーダーというのも嘘。

銀行の残高証明も嘘。

利益が順調に出ているのも嘘。

本当は何一つうまくいっていない。利益も出ていない。プール金もない。

お客様から預かった資金も……ない。

こんな現実、とても受け止めきれない。

まさか銀行の残高証明まで作り変えているとは。

文書偽造ってことは、これって詐欺ではないのか。

小川 : お前、これって詐欺じゃん。分かってんの?自分が何をしたのか。

K : …はい。

知らなかったとはいえ、俺も周りの方達を詐欺投資に巻き込んでしまったのか。

終わったな…

マジで終わった。

もう何をどうしたらいいのか本当に分からない。

少しの間、私の思考は完全に停止してしまった。

幸せの絶頂からの急転落

Kから事実を伝えられても、すぐには考えをまとめることはできなかった。

現実を直視できない。考えがまとまらない。

無くなったお金をどうやって取り戻せばいいんだ?

2,000万円だぞ。

普通に生活している人間からすると大金だ。

一体、どのツラ下げて皆さんにお詫びすればいいんだ。

自分自身のことを考えても、収入が完全に途絶えている。

翌日からどうやって生きていくかも考えながら、事態を収拾しなければいけない。

小川 : まずは、お客様にこの状況を説明しないといけないから、朝一でお客様全員に連絡して、ここに来てもらおう。

K : はい。

その時には夜中の4時を回っていた。

まだ頭の中で整理ができていない。

Kと音信不通にならないように、その日はKの家に泊まることにした。

起こってしまった最悪の事態に、不安で押し潰されそうになっていた。

明日が来なければいいと願ってしまった。

しかし、容赦なく時間は流れていく。

数時間後には、お客様全員に連絡をして事情を説明しなければいけない。

数日前に銀行口座が凍結したと言っておいて、そこから資金が全て無くなったと伝えることになる。

お客様は12名。

損失額は2,000万円を超えている。

しかも、ほぼ全員が自分経由のお客様だった。 

つまり、友人・知人を
巻き込んでしまったのだ。

あれだけ信頼してくれて、大切な資金を任せてくれたのに申し訳が立たない。

でも、せめて今だけは…

一瞬だけでもいいから現実逃避をさせてください。

そう願い、私は短い眠りについた。

次の日から押し寄せてくる激動の数ヶ月に、私は容赦なくのみ込まれていくのである。

・・・

・・・

第七話に続く

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