【第4話】実録!ネットワークビジネス(マルチ商法)体験記

【第4話】実録!ネットワークビジネス(マルチ商法)体験記

【前回の話】第3話

前回のあらすじ

A社のビジネスを本格的にスタートした小川。

Oさんから一通りの説明も受けて、いよいよ人に伝えていく段階に足を踏み入れたのだった。

MLMの勧誘とネガティブな反応は兄弟のようなもの

「それってねずみ講でしょ」

「友達無くすからやめた方がいいよ」

「あー、マルチね」

「そういう話ならもう会わない」

ネットワークビジネスを実際にやったことがある方なら理解できるとはずだ。

そして、失礼な発言だが実際にやったことがない方には理解できないことだと思う。

ネットワークビジネスの世界はとても独特だ。

ネガティブなイメージが強い業界ゆえに、沢山の逆風に晒される。そのため強い確信がなければビジネスを続けることはできない。

この「確信」というのが、僕にとって非常に厄介なものだった。

ビジネスをはじめた当初は気づいていなかったが、ビジネス活動をしていくなかで否応にも気づかされていく。

ネットワークビジネスにとってメンタルがいかに重要であるかを突きつけられていくのであった。

早速アポイントを取りまくる

ビジネスをやると決めたのはいいが、自分では全く説明ができない。

僕の役割は、アポイントを取ってOさんに繋げることだった。

いわゆる「ABC」というやつだ。

とにかく繋げること。自分で余計な説明はしない。

それを意識した。

リストアップをしたら200件くらいの方がいたので、電話帳に載っている方に片っぱしから連絡していった。

しかし当時の僕は、給料未払い騒動や新しい仕事探しでバタバタしている時期だった。

お金も無かったので、早急に仕事を探す必要がある。

最低限の生活費とA社の製品代、ビジネス活動費を稼がなければどうしようもない。

仕事探しとA社のビジネス活動を慌ただしく行っていった。

その時は、かなり必死だったのを今でも覚えている。

A社のビジネス活動をしているあいだ、僕はアルバイトを転々としながら何とか食い繋いでいたのだった。

最初の一ヶ月半で40人とアポイント

「とにかく人と会わないとどうにもならない」

そう思いどんどんアポイントを入れていった。

正直、電話は得意ではなかったので、メールでアポ取りをしていった。

こういうビジネスでは、大体アポイントは電話らしいが、僕はそれを極力避けていた(アポイントの1割程度は電話もかけたが)

基本的には、お茶アポと言って「久しぶりにお茶でもしよう」という誘い方をした。

いきなり電話やメールでA社のビジネスを聴いてくれと伝えるのは微妙過ぎると判断したからである。

相手の様子をみながら、伝えるか伝えないかの判断もしたいと思った。

こうして僕は、最初の1ヶ月半で約40件のアポイントを取った。アルバイトの合間をぬって動いたにしては上出来だと思う。

ほぼ毎日アポイントを入れて、人に会っていったのだった。

しかし、ここで最大の難関にぶつかることになった。

結局、この壁を越えられなかったことがビジネス活動をやめた決め手になったと言ってもいい。

それほどまでに僕のなかでは乗り越えるのが困難な壁だったのだ。

A社のビジネスをやっていると言えない

A社のビジネス活動をしていて痛感したことがある。

それは「A社のビジネスを、確信を持って伝えることができない」ということだ。

これは完全にメンタル的な部分が起因している問題である。しかし、これは致命的な問題として僕の前に立ち塞がった。

僕はネットワークビジネスはメンタルのビジネスだと思っている。

なぜなら、スキル的な部分は上位者がサポートしてくれることである程度補うことができる。

しかし、アポ取りや新規開拓は自分でやらなければいけない。

当然である。

しかし、ビジネスに確信がないと行動に結びつきにくくなるし、伝える時も相手に響かない。

確信やワクワク感、楽しさなどを心の底に持っていなければ、人を巻き込んでいくことは到底できないのである。

よく口コミを起こせるインフルエンサーと呼ばれる人は、その製品やサービスを心から気に入っている。

そのため、周りの人を巻き込むことができるのである。

「あなたがそんなに言うなら私も使ってみたい」

このような感情が自然と湧いてくるのだ。しかも、そういうときは相手に嫌な感情は与えない。

しかし、その時の僕はその心理状態とは真逆のところにいたと言っていい。

A社の頭文字は「ア」なのだが、このアの字を言うことができないのだ。

「ア●●●●って知ってる?」

「ア●●●●を始めたんだけど…」

と切り出すことができない。

致命的である。

なぜ、このようなメンタルになってしまうのか?

それは「拒絶されるのが怖い」からだ。

特にネットワークビジネス、その中でもA社はネガティブなイメージを持っている人が多い。

日本にあるネットワークビジネスの会社の中で、最も有名だから仕方がないのだが。

A社のビジネスに確信があって、拒絶されても屁とも思わないメンタルがあれば問題はない。

相手が何と言おうと、A社のビジネスは相手のためになるから、絶対に伝え続ける。

ここまでの確信があれば、メンタルも折れることはないだろう。

しかし先ほども伝えたように、僕の確信はちょっとした風が吹いたら飛んでしまうようなペラッペラなものしか持ち合わせていない。

「断られたらどうしよう…」

「嫌われたらどうしよう…」

「拒絶されたらどうしよう…」

そう思うと、A社の名前を出すだけでも心拍数が跳ね上がった。鼓動が高鳴り、心臓がドキドキする。

無意識にメンタルでブレーキが掛かっている感じだ。「えー」や「あのー」といった不自然な言葉も増えてくる。

相手から見ても、明らかにおかしな状況だろう。

「ア」の言葉が出てこない。

恐いのだ。

そう、自分はビビっている。

しかし、その恐怖心を無理やり奮い立たせて僕はA社のビジネスを伝えていった。

「A社のビジネスを詳しく聴いたことある?」

そう聴くと、ほとんどの人は

「詳しく聴いたことはない」

と答える。

そういう人にだけ「一度話を聴いて欲しい」と伝えて、Oさんに繋いでいった。

うまく伝えようとかそんなのは全然考えていなかった。完全に勢いだけである。

当時の僕は25歳になったばかりだった。ビジネスを伝える人もどうしても20代が多くなる。

僕が20代の友人、知人にビジネスを伝えた感触としてこのようなことが分かった。

・ネガティブなイメージの人:50%
・よく分からない、初めて聞いた:45%
・話くらいなら聴いてみたい:5%

あくまで僕のザックリイメージだが、このようなリアクションだったと思う。

ネガティブなイメージの人に言われたことといえば、

「それってねずみ講でしょ」

「親がやっててやめた」

「他の友達に誘われた」

「友達無くすからやめた方がいいよ」

「昔やっててやめた」

「成功するわけない」

「あー、マルチね」

こんな感じだろうか。

20代だとネットワークビジネスを聞いたことがないという人も実は結構いる。

「なにそれ?」

「初めて聞いた」

しかしこういう返答をされると地味に説明に困ってしまう。

詳しい話を聴いてほしいからOさんに会ってほしいと伝えると、

「えっ、今話してよ」

「他の人からは話聞きたくない」

「また時間を取るとか面倒くさい」

こんな返答をされてしまう。

今思うと、自分が十分な興味づけをできていなかったから、このような返答をされてしまうのだが…

当時の僕には興味づけなんていうテクニックは持ち合わせていなかった。

ほとんどの人はよく知らずに批判する

最初の1ヶ月半で約40人に会ってA社のビジネスを伝えてきて、色々なことに気がついた。

その代表例が「人ってよく分かっていないのに批判する」である。

これには本当に驚いた。

人は自分の持っているイメージで良い悪いの判断をしている。

冷静に考えると、A社のビジネスをきちんと聞く前の自分もそうだった。

周りの人が「怪しい」「悪いこと」と言ってるから何となく悪いイメージを持っていて、そのイメージで全てを決めつけてしまっていた。

全然余裕で自分にも当てはまってる。

それから僕は、できる限り先入観を持たずに情報を取るように心がけている。

まぁ、余談だったが。

実際に、ネガティブなイメージを持っている人に、A社のビジネスを詳しく説明できるか聞いたことがある。すると、ほとんどの人は「いや、できないけど…」と言葉をにごしていた。

詳しく理解していないのに、イメージで批判をする。

人間、そんなものなのだ(僕も含めて)

印象に残っているのは「合法的なねずみ講でしょ」と言われたことである。

合法なのにねずみ講って!笑

矛盾を孕んでいるこの単語は、7年以上前なのによく覚えている。

初月の登録が5人

アポイントを取ってA社のビジネスを伝えるのは、僕にとって修行のようなものであった。

メンタルをすり減らす日々。

動き回った結果、最初の1ヶ月で5人がメンバー登録してくれた。

最初の一ヶ月は、おそらく30人くらいに伝えていたので、登録してくれたのは、15%くらいの割合だった。一生懸命伝えたのだけれど「こんなものなのか」と残念に思った記憶がある。

登録してくれる人はポツポツ出てきたが、全然収益には結びつかなかった。最初の数ヶ月は、数百円くらいの収益だった。

A社の製品を毎月2万円ほど購入していたので、実際は毎月赤字を垂れ流している状況である。

本当に全然稼げていなかったのだ。

疎遠になる友達も出てくる

はっきり言って、営業経験もなくいきなりネットワークビジネスに取り組んだとしたら、かなりの確率で人に伝えるのは失敗するだろう。

ネットワークビジネスの業界自体イメージが悪い。さらにA社の名前は、30代以上の方ならほとんどの人が知っている。

僕が伝えていたのは20代がメインだったが、それでもネガティブなイメージを持っている人は多かった。おそらく半分以上の人がネガティブなイメージを持っている。

そのためうまく相手に伝わらずに、苦戦を強いられることになった。

そもそも僕の伝え方がヘタクソ過ぎたのも原因の一つなのだが。

何でも最初からうまくいくとは限らない。

すぐに上達する人もいればなかなか上達しない人もいる。

しかし、当時の僕は「何で分かってくれないんだ」と憤りを感じていた。

自分のメンタル・知識・スキル・経験が伴っていないため、思うように伝わらない。

そのため、伝える時にヒートアップしてしまい、強引な伝え方で不快にさせてしまった方もいる。

振り返っても本当に申し訳ないことをしたと思っている。ネットワークビジネスをやっていて、こういう気持ちになった方は多いのではないだろうか。

ビジネスモデルの性質上、しつこい勧誘行為にもなりがちだ。

ネットワークビジネスが悪いのではなく、伝える人が相手を不快にさせてしまうため業界全体の印象が悪くなる。

そして、伝える相手は自分の友人や知人である。

特に仲の良い友達から真っ向否定されるのは、メンタル的になかなかツライものがある。

よくネットワークビジネスの勧誘の場面で「リスクのないビジネスだから」と言う人もいるが、僕は違うと思う。

リスクはある。

特に一番大きなリスクだと感じたものは「人間関係の破綻リスク」である。

もしこのブログを読んでいる方の中に、ネットワークビジネスをやろうと思っている方がいるなら、そのリスクは念頭に置いた方がいいだろう。

最初から上手に、伝えることができる人なら大丈夫かもしれないが、そういう人の方が少ないはずなのだから。

彼女にもフラれる

これは全然関係ない話だが、僕がA社のビジネスにのめり込んでしまったために、当時付き合っていた彼女にフラれてしまった。

相当ショックな出来事だった。

「もう一緒に居れない」

そう言われて、半個室の居酒屋で思わず泣いてしまった。

ビジネスに盲目的になり過ぎると、今いる大切な人が離れていくリスクもあると痛感した出来事だった。

あの時は本当に辛かった。

A社での最高月収1万円

ここまでの話を聞いて「結局小川は、A社のビジネスでいくら稼いだんだ?」と気になる人もいると思う。

このブログを読んでくださっているあなたには、包み隠さずお伝えしよう。

僕が1年数ヶ月、A社のビジネスをやって頂いた最高月収は…

「1万円」である。

100万円じゃない。10万円でもない。

最高月収1万円である。

今振り返ってもびっくりだ。

A社のビジネスで結果を出している人が見たら、鼻で笑われる金額だろう。

しかも1万円の最高月収を取った月、自己消費で製品を購入したのは「26万円分」であった。

26万円-1万円 = 25万円の赤字

もはやビジネスとは言えないほど、収支バランスがおかしくなっている。

A社には無水鍋やフードプロセッサーもあったので、それら一式をローンで購入した。

それらをトータルすると26万円ほどの金額になっていた。

負け惜しみに聞こえるかもしれないが、今も有効活用している。だから後悔はしていない。

本当に後悔していない。

本当である。

「A社のビジネスで借金を抱える」の真相とは

よく巷で言われるのは「A社のビジネスで借金を抱えた」ということだ。

これは本当なのだろうか。

ここでは僕個人の見解を書いていきたい。

A社のビジネスで借金をする、ローンを組んでしまう。それは上位者(リーダー)のスタンスによって異なる。

※リーダーとは

A社のビジネスで一定水準以上の成果を出して、タイトルを持っている方。

A社のビジネスには成果ごとに「タイトル」というのがあり、そのタイトルによって影響力が変わってくるのだ。

・・・・・・・・

より高いタイトルを取るには、自分発信の流通から売上を上げていく必要がある。売上を強引に作るために、高額の耐久消費財を流通させるモラルのないリーダーも実際にいる。

そういうリーダーの指導を受けていると、無理をして大型製品を買い込んでいくことになる。リーダーとの人間関係に縛られてしまい、人によっては次々とローンを組んで製品を購入してしまうのだ。

それが積み重なると、ビジネスメンバーはどんどん疲弊していく。

今は、昔よりもローンが通りにくくなっているので、昔ほどマナーの悪い方は少なくなっているようだが。それでも、インターネット上にA社の製品が格安で流通しているところを見ると、まだそのようにやっている方はいるのだろう。

リーダーの立場からすると「早くタイトルを上げたい」という強い欲求がある。

そしてミーティングなどで「今会計は●●までやります」と宣言していると、なおさら後に引けない気持ちになる。

そして一度タイトルを達成すると、次は「タイトルを落とせない」というプレッシャーに晒される。

だから、グループのメンバーに無理な買い込みをさせてしまうリーダーが出てくるのである。人間の業(ごう)が反映されやすいビジネスモデルだと感じた。

しかし、これも人によるので「そういう人もいる」くらいに捉えて頂けると良いと思う。

実際に僕は、ネットワークビジネスをやっているリーダーさんで良い方にも沢山会ってきている。

マナーの悪い方もいるが、そういう方ばかりではないこともどうかご理解頂きたい。

1年続けて11人の紹介を出す

結局A社のビジネスでは、1年数ヶ月続けて11人の紹介者を出した。

少ないと思われるかもしれないが、かなり大変な思いをして出した結果である。

人によってはそこから口コミで流通を伸ばしていき、ビジネスを拡大できるのだろう。しかし僕の場合、11人のメンバーから誰一人としてその先に流通が広がらなかった。

誰一人である。

そうなるとネットワークではなく、単純な営業活動と変わらない。

一人でバタバタと空回りしているだけであった。

そして紹介したメンバーからも全然流通が起こらない。

こうして僕のA社でのビジネス活動では、最高月収1万円で幕を閉じていくのであった。

更新で半分が退会

ここである。

僕の心が「ボキッ」と折れたのは。

A社には一年に一回、メンバーの更新というものがある。

メンバーの方は年間更新費で3,500円(僕がいた当時)を払い、メンバーを継続するか退会するかを選択することになる。

その更新の時に、なんとメンバーの半分が退会したのである。

あるミーティングで、G君が神妙な面持ちで僕に声をかけてきた。

「コウジさん、ちょっといいですか?」

何だろうと思ってついていくと、G君は何通かの封筒を持っていた。

バサッ

「コウジさん、これ」

「ん?なにこれ?」

「コウジさんのグループで更新の手続きをしていない人達です」

「えっ、こんなにいるの?」

「そうですよ。こんなの他の人達の前で見せられないですよ」

G君はかなりのお怒りモードで僕にその事実を伝えてきた。

いや、そんなキレられても…

あたり前の話だが、こっちだって退会者を出したくてビジネスをしているわけではない。

そういうやり取りもあって、僕のメンタルはめげてしまった。「ボキッ」と心が折れる音が聞こえるようであった。

一体稼げるようになるまで何年掛かるんだろう。

僕はこれまでの一年間の労力を振り返って考えてみた。

自分で言うのも何だが、相当な時間と労力を割いてA社のビジネスを頑張ってきた。

これだけの動きを一体どれだけの人が続けられるのだろう。

僕が続けるだけではなく、僕が紹介した方の中から同じように動く方を育成していかなければいけない。

そう考えると、成功できる気がしなくなった。

途中から、そう思うようになったのである。

小川の疑念

こうして、僕の中ではA社のビジネスに関して様々な疑念が出てきた。

そこで一つの仮説を立てた。

「A社のビジネスは、もう古いのではないか?」

僕が学生時代にビジネスを教えてくれたY師匠は「ビジネスはタイミングが重要だ」と、よく言っていた。

例えば、今の日本でエアコンを開発して売ろうと思っても、ほぼ間違いなく大手には勝てないだろう。

起業家は、これからの時流、マーケットの動向を読み、適切な商品やサービスを市場に投下することが求められる。

そういった観点で考えると、A社のビジネスモデルを大きく伸ばすのは難しいと思った。

※後になってこの考えを覆す人が現れるのだが、当時の僕はそう考えていた。

そんなタイミングである。

僕の元にアメリカから上陸したばかりの「新興勢力M社」の話がやってきたのは。

ほかのビジネスなど一切選択肢に入れていなかった僕は、恐ろしいほど感情を揺さぶられた。

確か2010年の秋頃で、肌寒くなってきた時期だ。

M社の話を聞いた帰り道、冷たい雨が降りそそいでいた。

真夜中で終電もなくなり、傘も差さず雨に打たれながら僕は一人で帰り道を歩いていた。

こうして僕は、また大きな変化の波に呑み込まれていくことになるのである。

・・・

・・・

第5話につづく

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