【前回の話】第1話
前回のあらすじ
就職しようと思っていた会社で給料未払い事件が発生。
仕事のストレスと将来の不安からメンタル的をすり減らす毎日を送っていた。
そのタイミングとほぼ同時期に、ネットワークビジネス最大手A社のビジネスの話がやってきた。
悪い印象しかない小川は、どのような対応をするのだろうか…
物事はいつだって畳み掛けるようにやってくる
今となっては、はっきりとは分からないことがある。大学を卒業した直後というのは、一般的な人は一体どのような気持ちになっているのだろうか?
僕はすでに「一般的な卒業」からはかけ離れた状態になってしまった。
想像しかできないが、おそらく新社会人への期待と不安で胸をふくらませているのだと思う。
これからバリバリ働いてキャリアアップしてやる!
早く仕事を覚えて社内でも一目置かれる存在になってやる!
トップの営業成績を出してガンガン稼いでやる!
期待や目標、志もあるはずだ。
しかし、大学を卒業したばかりの僕は、そんなものとは無縁の状態に陥っていた。
「これからどうしよう」
そんなことばかりが頭の中を駆け巡っていた。
僕の元にネットワークビジネスA社の話がきたのは、それよりほんの少し前のことだ。
つまり会社が傾いて、給料未払い問題が出てきた頃である。
人生の変化は、畳み掛けるようにやってくる。
それは僕の経験から感じていることだが、この時の僕にもまさに畳み掛けるようにA社の情報がやってきたのだった。
G君からの連絡
ある日、A社のビジネスをしていた友人の友人(ここではG君と記載)から「コウジさんに話したいことがあるので、お時間頂けませんか?」と連絡があった。
すぐにピンときた。
「あー、A社のビジネスの話をしたいのか」
A社のビジネスは学生ではできない。だからG君は、僕の大学卒業を待っていたのだ。
正直、全く聞く気にならない。でも、友人の友人だから邪険にするわけにもいかない。
仕方がない。
一度話を聴いてきっぱり断ろう。
そう思ってG君と会うことを決めた。
こうして僕とG君は、近場のガストで待ち合わせをしたのであった。
初めてネットワークビジネスのプランを聴く
昼間のガストは賑わいをみせていた。サラリーマン風の人達がランチを食べている。
僕は世間一般の流れと完全に逸脱した世界にいるような感覚だった。
気分がよいとは決していえない。サッサと話を聴いて引き揚げよう。全然聞く気がおきない。
そんなことを考えていると、ガストにG君がやってきた。
冷静に考えると、A社のビジネスの話だと決めつけてはいけないな。別件の用事かもしれない。
さて、一体どんな話をしてくるのだろうか。
すると…
「コウジさん、今日はA社のビジネスについて話を聴いてほしくてお呼びしました」
ということだった。
あー、やっぱりか。案の定、である。
予想通りとはいえ、正直あまり気分は良くない。なぜなら、ネットワークビジネスに対してネガティブなイメージしか僕にはなかったからだ。
しかし、ここまで来たのだから一度話を聴くしかないだろう。話を聴かずに帰るわけにもいかないだろうし。
一度話を聴いて断れば、それ以上は何も言ってこないはずだ。
「分かったよ。話は聴くよ。でも絶対にやらないと思うから、それは先に言っておくね」
「全然大丈夫です。やるやらないというのは置いといて話を聴いてください。では、A社のビジネスについて簡単に話をさせて頂きますね」
そう言ってG君は、ビジネスの話を始めた。
こうして僕は、A社のビジネスモデルを初めて聴くことになるのである。
・・・・・
正直に言うと、僕の耳のシャッターはほとんど閉じていたので、内容は全然頭に入っていなかった。今振り返っても何を話したのかほとんど思い出せない。
でも、話を聴いていて2つだけ理解できたことがある。
1つ目はビジネスプランは、非常に公平性が高いということ。
後に始めても頑張り次第で先に始めた人を抜くことができる。
2つ目は、ネズミ講やマルチまがい商法とネットワークビジネスは別物だということ。
何も知識がなかったので、ネズミ講とマルチまがい商法、そしてネットワークビジネスの違いすら分かっていなかった。
そもそも、この法治国家日本で長年行われているビジネスなのだから、違法な仕組みであるわけがない。
ネットワークビジネスの仕組みを悪用して、詐欺的なビジネスをする人もいるのだろう。
合法的なビジネスと詐欺的なビジネスを完全に混合して考えていた。
G君の一通りの説明で「詐欺的なビジネスではない」ということは分かった。
きちんと話を聴かなかったら、ずっと誤解をしたままだったと思う。
そういった視点で考えると話を聴いてよかったと思った。
全く興味が湧かなかったものの…
大枠のビジネスの話を聴いて変なビジネスではないことは分かったが、それでもビジネスをやる気には全然ならなかった。
ビジネスプランの説明もしてくれたのだが、一度聴いただけでは何となくしか理解できなかった。
そして一通り話を聴き終わった後「申し訳ないけど、A社のビジネスをやりたいとは全然考えていないよ」
はっきりと断った。
するとG君は「ビジネスをやる気持ちがないというのは分かりました。でもせっかくですから、A社のビジネスで成功している方に一度会ってみませんか?コウジさんにとってためになる話が聴けると思いますよ」
という提案をしてきた。
…なるほど。成功者か。
この提案には心が動いた。
A社のビジネスには全く興味はないが、成功者と言われる人には会ってみたいと思った。
「ビジネスをやるつもりは全くないけど会わせてくれるの?」
「もちろん、大丈夫ですよ」
この時の僕は、全く分かっていなかった。
A社の成功者に会わせてくれると聞いて「やった!ラッキー!」と思ってしまった。
しかし、今なら分かる。これは、ネットワークビジネスの用語で「ABC」と呼ばれるやつなのだ。
つまりビジネスの戦略の一つなのである。
※ABCとは…
ネットワークビジネスの話をする時に、リーダーが紹介者の代わりに説明してくれる場のこと。
A:アンサー(プレゼンする人・俗に言う“上の人”)
B:ブリッジ(繋ぐ人・つまり紹介者)
C:カスタマー・クライアント(お客様)
これらを略してネットワークビジネスでは、ABCという呼び方をする。
今回のケースに当てはめると、
A:成功者と言われる人
B:G君
C:小川
ということになる。
こうしてA社のビジネスで成功している方を紹介してもらう段取りが進んでいった。
僕はA社の成功者がどんな人なのか、会うのが楽しみになっていた。
待ち合わせ当日
いよいよ、A社のビジネスで成功している方を紹介してもらう日がやってきた。
会う場所は、その成功者の自宅ということになっていた。僕は場所が分からなかったので、G君と待ち合わせをして一緒に向かうことにした。
G君と合流する待ち合わせ場所に向かう前に「手土産の一つもあった方が良いだろうな」と考えて、石山通りにある「くるみや」のシフォンケーキを4つほど購入した。
さて、準備万端だ。
それにしても、どんな人なのだろう。
経営者の方には何人も会ってきたことはあるけど、ネットワークビジネスの成功者に会うのは初めてのことだ。
本音では少しワクワクしていた。
そして、G君と一緒にA社の成功者が住んでいるマンション到着したのだった。
いざ、A社の成功者とご対面
「うわっ、すごいキレイなマンション」
A社の成功者が住んでいるというマンションは、予想通り立派なものだった。
外観もキレイだし、駐車場には高級車が停まっている。高額所得者ばかりが住んでいるマンションという感じがした。
そして部屋に到着して、G君がチャイムを鳴らした。
「はーい」
部屋から声がしてドアが開いた。
部屋から出てきたのは、ヒゲを生やした40代くらいのダンディな男性であった。
案内されるまま部屋に入った。
リビングに入ると「うわっ、広っ!」と思わず口に出てしまいそうになった。
当然だが、自分家とは全然違う。
A社の成功者が住んでいたところは「一度はこんなマンションに住んでみたい」と思うようなところであった。
ソファーもふかふかでキレイだし、僕では価値の判断できない絵も飾ってある。
「なんだか高そうだけど、全然価値が分からない」
僕がキョロキョロしてると、A社の成功者がコーヒーを淹れてくれた。
※ここからはOさんと記載
何やらA社の製品にコーヒーを入れるマシンがあるらしい。
残念なことに当時の僕は、コーヒーが苦手だったのでA社のコーヒーマシンが良いのか悪いのか、まるで判断がつかなかった。
部屋の広さとキレイさに目を奪われてしまったが、本日の本題はこれではない。
その時の僕は、ネットワークビジネスの成功者に「ビジネス成功の秘訣」というものを聴いてみたかった。それから何かヒントを得られたら良いなと思っていたのだった。
話を聴いてみたけど…
おそらく1時間半ほど話をしたと思う。
しかし、意外なことにOさんの話を聴いても全然ピンとくるものがなかった。もっというと、会話で覚えていることがほとんどない。
Oさんも想像していた人とはかなり違っていた。なんというか、想像していたよりも「普通の人」という感じだ。
だいぶ話をして、そろそろ帰ろうかなという雰囲気になった。
「なんか想像していたのと違ったな。まぁ、仕方ないか」
もうA社のビジネスには縁がないだろうと思っていた。
しかし…
Oさんが帰り際に放った一言で事態は急変することになった。
Oさんの一言がきっかけで、僕はA社のビジネスをやろうと思ったのだ。
Oさんは「A社のビジネスは、人間としての器を磨けるビジネスなんだよ」と言ったのだ。
Oさんは特に意識せずに言った言葉なのだろうが、このセリフは僕の心のど真ん中に入った。僕は昔から、人間として器の大きな男になりたいと思っていた。
僕はビビりだし、嫌なことがあると投げ出してしまいがちだ。
だから周りから見て「この人カッコイイ!」と思われるような器のデカイ人間になりたかった。
そう思っていた僕には、Oさんの一言は驚くほど響いた。
「それならやってみたい」
なんとも不思議なことに、僕はA社の製品やビジネスプランなどもほとんど理解しないままビジネスをやろうと決意したのだ。
Oさんとの話が終わりG君と帰っている最中に「俺、ビジネスやるわ」と宣言した。
今でも覚えている。
Oさんのマンションから出てくる時に宣言したのた。
G君は「えっ?」という顔をしていた。
終盤まで全くやる気を見せていなかった人間が突如やる気になったのだから、そりゃ驚くだろう。
おそらく非常に変わったパターンの人間だと思う。
こうして僕は、A社のビジネスを本気で取り組んでいくことになるのである。
これが自分にとって「いばらの道」になるとも知らずに…
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第三話につづく